親権者による未成年者略取

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判例 最平17年12月6日刑集59巻10号1901頁

事案の概要

 被告人は別居している妻が育てている長男A(2歳児)を連れ去ろうとして、保育園の迎えの隙をついて、背後からAを抱きかかえ全力疾走し、自分の車にAを乗せて走り去りました。その後逮捕された被告人であるが、被告人はAの親権者であったため、未成年者略取罪が成立しないのではないか問題となりました。

決定要旨

 被告人がそのような行動に出ることにつき、Aの監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから、その行為は、親権者によるものであるとしても、正当なものということはできない。また、本件の行為態様が粗暴で強引なものであること、Bが自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること、その年齢上、常時監護養育が必要とされるのに、略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると、家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。

コメント

 別居して離婚訴訟で争っている夫婦の間で起こった少し悲しい事件です。判例上、たとえ親権者であっても未成年者略取・誘拐罪の主体となることは争いがありません。したがって、本件のように別居中の夫が我が子と一緒に居たくて連れ去ったような場合でも未成年者略取・誘拐罪となります。ただし、特段の事情がある場合には、違法性がないとして犯罪不成立となります。例えば、子供が別居中の妻のもとで虐待を受けていることを知った夫がなんとか子供を助けようと誘拐したような場合が考えられます。残念ながら、本件ではこうした事情がなく正当な行為とはいえず、また行為態様や子供の年齢などから家族間の行為として許容されることもないとされ、犯罪が成立してしまいました。

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